札幌地方裁判所 平成3年(わ)406号 判決 1991年9月10日
本籍
札幌市中央区北二条西二一丁目六番地
住居
同市西区山の手一条三丁目四番二四号
会社役員
中山康雄
大正九年三月二日生
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、営利を目的とした有価証券の売買を継続的に行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、他人名義で株式を購入するなどの方法により、その売買による所得等を秘匿したうえ、
第一 昭和六一年分の実際総所得金額が九〇六八万一〇五二円であり、これに対する所得税額が四八八九万一二〇〇円であるにもかかわらず、昭和六二年三月一三日、札幌市中央区北七条西二五丁目所在の所轄札幌西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一四六三万四四八〇円であり、これに対する所得税額が二一二万一二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同月一六日を徒過させ、もって、不正の行為により正規の所得税額との差額四六七七万円を免れた。
第二 昭和六二年分の実際総所得金額が一億三一七六万五九四六円であり、これに対する所得税額が六七九〇万八七〇〇円であるにもかかわらず、昭和六三年三月一五日、前記札幌西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二一一三万五七〇〇円であり、これに対する所得税額が三八二万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって、不正の行為により正規の所得税額との差額六四〇八万三五〇〇円を免れた。
第三 昭和六三年分の実際総所得金額が四八〇四万二三九九円であり、これに対する所得税額が一五四九万八九〇〇円であるにもかかわらず、平成元年三月一三日、前記札幌西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二三五四万二九九七円てあり、これに対する所得税額が三四四万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同月一五日を徒過させ、もって、不正の行為により正規の所得税額との差額一二〇五万二一〇〇円を免れた。
(証拠)
1 被告人の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書
2 川口学、中山哲子の検察官調書
3 上野恵美子(二通)、井口健、山田園子、新出利吉、藤島俊雄、小林陽太郎、佐藤友信の検察事務官(検察官事務取扱)調書
4 脱税額計算書
5 調査事績報告書二通
6 大蔵事務官作成の調査書九通
7 昭和六〇年分~平成元年分所得税確定申告書ほか綴(平成三年押第一〇六号の1)
(法令の適用)
罰条 各所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 各懲役刑と罰金刑の併科
併合罪の加重
懲役刑につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に法定の加重)
罰金刑につき 刑法四五条前段、四八条二項
労役場留置 刑法一八条
刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)
(量刑の事情)
本件は、被告人が、株式売買益の課税基準を十分認識しながら、三年間で合計二億一四〇〇万円余りの株式売買による利益を全て除外して虚偽過少の所得申告を行い、合計一億二二九〇円余の所得税をほ脱した事案であるが、ほ脱額が高額であり、ほ脱率も平均九二・九パーセントと高率であるうえ、その犯行態様も、自己が経営する会社の従業員や知人ら多数の名義を借り、右各名義の口座を開設したうえ、他人名義で小口にわけて株取引を行っていたもので、巧妙かつ悪質である。また、本件犯行の動機をみても、株取引によるリスクに備えるため、あるいは新たな投資資金や競馬等のギャンブルの資金を確保するためなどというもので、自己中心的で酌量の余地はなく、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
しかし他方、被告人は本件摘発後反省の態度を示し、修正申告を行って本件各年度にかかる修正本税、延滞税、重加算税などを全て納付したこと、本件により一定の社会的制裁を受けたこと、これまで交通事犯の罰金前科以外前科前歴がないこと、その他、被告人の年令や健康状態などをも考慮したうえ、主文のとおり刑を定め、懲役刑についてはその執行を猶予することとした。
(検察官中村嘉樹出席、弁護人山田廣出頭)
(裁判官 河合健司)